連載 No.49 2017年02月19日掲載

 

職業と肩書き


サラリーマンをリタイアして、写真家になった、と言う人から“フォトグラファー”と書かれた名刺をもらうことがある。

写真集を出版し、展覧会を重ねれば確かに写真家ではあるけれど、

これほど生計を立てるのが難しい職業も無いように思う。

音楽家や美術家、文筆家などに比べれば敷居の低い肩書のように思えるし、

敷居が低ければ低いほど名乗る人も多く、自分を差別化するのは難しいのかもしれない。



職業と肩書きは違うと言う人もいるが、私自身は収入を得るものが仕事であり、自分の肩書きであると考えている。

全力で取り組んでその対価を得ると言う考え方からだが、

お金にならないものが芸術であると言う考えも少なからず否定できない。

しかし、さまざまな事業をこなす人が写真家としても活動し、

あまり収入にはならないけれど写真が本業だと話すのを聞くと、

多くの才能に恵まれた人への妬みだと言えなくもないが、なんだかずるいように思ってしまう。



フォトグラファー、カメラマン、写真家などの呼称にこだわる人もいるようだが、

それは受け止める側の問題で、その場の状況に即したものであれば大きな違いはないように感じている。

たしかにカメラマンと言う言葉は一般的で、

雑誌のグラビア撮影や、結婚式の写真を撮っている人しか思い浮かばない相手には、言葉を選んで説明が必要かもしれない。

そして重要なのは、ジャーナリストなのか、アーティストなのか、広告制作業なのかと言うような

仕事の目的を伝えることではないだろうか。



私は自己紹介では「カメラマン」や「写真家」で済ませてしまうことが多いが、。

さらに説明を求められると「ファイン・アート・フォトグラファー」と言う言葉を使う。

芸術写真家というような意味だから大げさだが、

写真は記録や出版と言った他の目的のために使われることが一般的だから、

作品そのものを目的として製作する場合は区別が必要だからだ。



逆に画家であれば芸術家が一般的で、それ以外の場合は商業画家として細分化された説明がつく。

長い歴史から考えれば、有名な絵描きは芸術家で、何百年も前の職業画家の名前はなかなか出てこない。

たくさんの絵描きの中で芸術家だけが現代でも多くの人に知られていることを考えると、

画家すなわち芸術家と言うのもうなずける。



現状少数派と言える「ファイン・アート・フォトグラファー」であるが、

時代の中で移り変わる職業を考えると、むしろ息の長い仕事かもしれない。

どのような写真が芸術なのかと言うことにはまったく関係ないが、

芸術を仕事として取り組む写真家が増えることに期待している。



著名な写真家が、「自分はウィークエンドフォトグラファーだ」と話しているのを聞いたことがある。

それは、有名になって作品を作る時間がなくて、全力で創作に没頭できていないと言う謙遜からだと思われたが、

他の芸術がそうであるように、写真においても片手間ではなかなかことが進まない。